2007年08月12日

爺さんの話「戦争放棄」

先日、俺の祖父が他界した。

その通夜、告別式の会場で久しぶりに親戚一同揃ったのだ。

うちは分家なので祖父と会う機会は正月くらいしかなく、どちらかといえばあまり縁がなかったのだが、本家であり、よく祖父の面倒を見ていた従姉の姉達はよく泣いていた。
しかし、かなりいい年だったので会場に漂う空気はどことなく明るく、葬式というよりもずっと昔に亡くなった婆さんの元に向かったからその出発式といった感じだった。

火葬場で祖父の遺体を火葬している最中、特に何もやることがなく暇だったので親戚の人たちと祖父の思い出話に花を咲かせていた。
祖父は戦争を生で経験した事があるので、興味深い話が多かった。
その中で出てきた気になった話を、俺が祖父から直接聞いた話しも交えながら紹介したいと思う。


今回は、俺が祖父から直接聞いた話。
『非国民』という言葉が流行っていた時代に、祖父が戦争を放棄した理由です。

太平洋戦争末期、祖父が所属していた部隊は沖縄に配属された。

皆さんご存知の通り、沖縄は太平洋戦争の最中で最も激しい戦場となった舞台の一つであり、当然の如く生還率も低かった。その沖縄から祖父の部隊はほぼ無傷で生還した話。

この話は印象深く記憶に残っているので、俺の幼少時代と祖父の会話を忠実に再現してみる形にしました。


1:戦争放棄の理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぼく「ねえ、おじいちゃん」
祖父「何だ、RYVO? 小遣いならやらんぞ。またお前の母ちゃんに怒られるからな」
ぼく「ううん、いらない。それより、おじいちゃんて戦争したの?」

祖父「戦争?・・・ああ、したな。いっぱいした」
祖父は少しだけ笑みを作り、遠くを見るような表情をした。
きっと、当時の事をいろいろと思い出していたのだろう。

ぼく「学校の先生がね、戦争したおじいちゃん達は悪者だって言ってた(要約)」

祖父は俺の話を聞いてから少し間をおき、
祖父「ふっ・・・戦争どころか平和の意味すら知らん馬鹿もんの話を真に受けるな」
ぼく「だって・・・」

日教組の話を純粋に真に受けていた俺は食い下がろうとするが、祖父は面白くなかったか、それとも面倒になったかどうかは解らないが話をそらした。

祖父「実は爺ちゃんな、実は・・・戦争を途中でやめちゃったんだ」
ぼく「え!」
当時の俺でも当時の常識であった『非国民』の風潮は、はだしのゲン等の知識で知っていたので、相当なショックを受けた。

祖父「爺ちゃんはな、戦争がもう直ぐ終わる頃に沖縄に居たんだ」
俺の祖父は最初に満州に渡り、その後は沖縄に転任していた。

祖父「あの頃は生きている事自体が奇跡みたいなもんだった。爆弾は次々降ってくるし、米軍は次々上陸してくるしな。

 ある時・・・俺がいた部隊の近くに米軍の軍用機が飛んでたことがあったんだ。その時は別の任務中だったから隠れてやり過ごしたが、その軍用機から大量の何かが投下された。

 俺らはそれが爆弾だと思って隠れたんだが、大量に投下された筈なのに一度も爆発音が聞こえなかったんだ。不思議に思った俺らはそれを調べに行った。そこには、パラシュートが付いた黒い筒のような物が大量に落ちてたんだ。米軍の新型爆弾か!?と誰もが思って遠くで見ていたが、しばらくすると何とも言えない良い臭いがしてきたんだ。

 当時の俺らは腹と背中がくっつきそうなほど腹が減っていてな、耐えられなくなって筒の近くまで行ってみたんだ。近付くほどに良い臭いが強くなっていった。

 俺らは筒に手が届くほど近付いた。良い臭いは間違いなく筒から出ている。だが、どう見てもそれは爆弾だ。誰もがこれは罠だと悟らざるを得なかった。
 だが、俺の部隊にいた1人、朝鮮人のチョウが我慢できずに俺が調べてみると言い出したんだ。奴は腹が空きすぎたせいか頭が少しおかしくなってたし、同じく腹が減りすぎている俺らは正常な判断力が失われつつあったから誰も止めなかった。まあ、そんなわけで言っても無駄だろうと悟った俺らは、遠くに離れてチョウの様子を見守った。
 チョウはそおっと爆弾の蓋を開けた。俺らは怯えながらそれを見ていたが、しばらくするとチョウは手招きで俺らを呼んだんだ。それは爆弾じゃなかった。今のランチボックスみたいな形になっていてな、一番上に肉や魚の缶詰に固いパン、次にコーヒー(恐らく粉)、その次に髭剃りや石鹸等の日用品、治療セット、一番下に噛みタバコが入っていた。

 俺らは、それはもう大喜びで食った。餓死するかもと思ってたほどだからな。他の部隊の連中も来て大いに喜んだもんだ。その内、上官が来て皆持っていってしまったが、俺らは全てのポケットに入りきらないくらいの食料を入れていた。上官もそれを見て見ぬ振りして文句は言わなかったな。

 その日の夜、俺らの部隊は夜通し話し合ったんだ。これからどうするかってことをな。だが、それは初めから答えが決まっていたようなもんだから、ただ自分に暗示を掛ける程度だった。
 その話し合いで出た回答は、俺らはもう戦わないって事だった。あんな物を大量に落としてくる連中に勝てるはずがない。アメリカの連中は自軍だけでなく、俺ら日本兵もあの辺にいるってことが解っていたはずだ。それを踏まえた上であえて落としたのだ。つまり、それは俺らが食ってもかまわないってことだ。
 食料どころか弾薬すら回ってこない俺ら日本と、こんな物を平気で敵がいる地に落とすアメリカ軍では天地の差がある。もう勝てん。

 この意見は俺がいた小隊の隊長も同意見でな、次の日の戦闘から進軍命令が来ても適当な理由見つけては遅れて行き、決して敵が見える位置まで行かなかった。その上、撤退命令はどの部隊よりも早く聞いてな、脱兎の如く逃げ出したんだ。そんなことを繰り返しているうちに戦争が終わって、俺らは誰一人として傷つくことなく家に帰っていったんだ。

俺はあの缶詰を食って以来、一度も銃の引き金を引いたことがない。それだけ安全パイを踏みまくったってことだな」




これが、俺の爺さんの戦争だった。
他にも満州で美女を助けたとか、娼婦と恋をしたとか眉唾物の話が沢山ありますが、それはまた次回!
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2006年06月22日

【復刻版】メタルギア風女子高寄宿舎潜入作戦


メタルギア風女子高寄宿舎潜入作戦




事実をちょっと脚色して、メタルギアソリッド風にしてしました。

俺は高校三年生…専門の推薦にも合格して、3学期は寮から出て悠々自適に自宅で過ごしている。

メタルギアで例えるなら、傭兵業を引退したと言って良いだろう。

そんなある日、俺に電話がかかって来た。

「スネーク…寝ているところを起こして悪かった」

「大佐か!久しぶりだな。エレベーターで大学決まったと聞いたから、こっちに戻ってくると思っていたのだが」



大佐は耶宵という名で、寄宿舎ですごしている。

中学生の頃、俺たちは男女の仲であったが、高校に入ってからは疎遠気味だった。

なんせ俺は、全寮制学校。耶宵は、寄宿舎付きの名門女子校だ。合う機会などほとんど無い。



「帰れなくて悪かったな、スネーク。私は、後輩達の家庭教師で忙しいのだ。既に3人も受け持っている」

「相変わらず学年トップか?」

中学生の頃の大佐は、凄い成績だった。

「いや、そうでもない。だが、これは学校の意向による強制なのだ…私に決定権はない」

「そうか…で、俺に何か用なのか?」

「ああ。君に任務を依頼したい」

「任務?」

「そうだ。君に依頼したい任務は二つ。一つはコンビニなどで、こちらが指定する物資を購入すること。

そして二つ目は、それらの物資を私の元まで届けることだ」

「届けるって…そこは男子禁制だろう?以前、お前に呼ばれて学園祭に行ったら門前払いにされたんだぞ?」

「あの時は、悪かった。まさか、学園祭まで規制されているとは思っていなかったのだ…」



「それで、その任務達成による成功報酬は?」

「久しぶりに、私に会えると言うだけでは不満か?」

「ああ。リスクが大きすぎる…」

「そうだな…もし見つかれば、警察が召還されて君は補導されてしまうだろう。

そうなれば、卒業間近の身で退学クラスの罰則を食らい、進学の道も閉ざされてしまうだろう…

君の人生至上、最悪の汚点として刻まれてしまう」

「そこまで解っていて、何故俺に言う?弟のREIに頼めばいいだろう。奴なら、たいした問題にはならないはずだ」

「REIは…生意気なことに、私への一切の協力を拒んだ。奴には制裁が必要だろう」

「俺だって嫌だ!」



シンと静まりかえって…



「スネーク…私は、君の女性関係を細かい所まで知っている。壁に耳あり障子に目ありだ」

「…何が言いたい?」

「君がこれまで行ってきた、あらゆる背徳行為を全て水に流してやっても良いと言っているのだ」

「…」

「それでも不満か?」

「それならば俺にも言い分がある。昔の友人達から、大佐の浮気行為を目撃したと連絡が多々あった。

それでも俺は大佐の責任を追求しなかったんだぞ?」

「私の場合は、金持ちの馬鹿ガキどもから、金品を巻き上げるだけだ。はじめからそこに愛などは存在しない。

だがスネーク…君は違う。君は、性交が目的であっただろう。違うか?」

「た、大佐だって抱かれただろう?」

「それは誤解だ!私はガキどもに体を委ねたことはない」

「その証拠が出せるとでも言うのか?」

「証拠はないが、証人はいる。私の場合は、ただの合コンだったのだ。必要以上に、彼らと関わってはいない」

「証人はその友人達と言うことか?」

「そう言うことだ。もし、私の友人達をも疑うというなら、私達の関係はそれまでだ」

「……………解った。信じる」

信じてなどいないが、そう言わざるを得ない。

大佐は俺の人生的なスポンサーでもあるから、関係を絶たれたら、そのダメージは計り知れない。

「だが、それとこれとは別問題だ。この任務はリスクが高すぎる…」



「………」

大佐は後ろから誰かを呼んでいる。

「あの…スネークさんですか?私、里沙って言います。きょ、え?」

受話器を離して、小声で何かを喋っている。

大佐がこの里沙とか言う女生徒に指示を送っているようだ。

「今日待ってますから必ず来てくださいね!」

相手が変わる。

「あ、代わりました。聡美です。宜しく御願いしますね。物資待ってます〜」

どうやら大佐は、若い女性で俺を釣りたいらしい…

「スネーク、聞いたか?今のは私の後輩達だ。中学生のな

「………」

「来てみたいとは思わないか、ここは君達男性にとって、秘密の花園だろう?

しかも、中学高校共に同じ寄宿舎に住んでいる」

「何が言いたいんだ!」

痛いところを突かれて声が荒くなる。

「ククク…スネーク。私は君の趣味は知っていると言うことだ」

「………」

「成功報酬として、特にお勧めの可愛い娘を何人か紹介してやってもいいぞ?」

「ク…大佐め…」

「私にとっては、一緒に暮らしている妹のようなものだ…皆、どんな娘かよく知っている」

「年上好みで、優しく美人で、家庭的な…そう、まるでマルチのような…

「わかった…」

「ん?何かね、スネーク」

「この任務、引き受けよう」

「そうか、来てくれるか!」

「報酬は…忘れるなよ」

「ああ、解っている」

俺はゆっくりと立ち上がる。

「それでは、購入して欲しい物資のリストを読み上げるから、メモを取ってくれ」





俺はスーパーで買い物をした。

タバコばかりだ…相当テンパっているらしい。ヴァージニアスリムにマルボロ…メンソールが多いな。

合計六カートンくらいのタバコと、凄い量の菓子やジュース・酒類を購入して店を出る。

かなり重い…だが、頑張ろう!



途中でREIと合流し、そこでPHSを受け取る。

ただ…ニヤニヤ笑っていたのが気になる。この任務には何か裏があるようだ…気を引き締めて行かねば。



一度バッグの中に全てのアイテムを詰める。



旅行用バッグがいっぱいになってしまった。しかも、瓶があるから粗末な扱いはできない…

極めて困難な任務になりそうだ。





夜8時…作戦決行の時間だ。

PHS無線を使う。

「大佐、学校の前まで来たぞ」

「そうか。よし!作戦を第二段階に移行するとしよう」

「どう潜入したらいい?正門は、門こそ閉じているが、見張りもいない状態だ」

「まて、スネーク。正門は罠だ!カメラが仕掛けられている。裏門も同じだ。」

「ならどうしたらいい?」

「スネーク、学校校舎側のプールに向かえ。その近くに非常用出口がある。その鍵は外しておいたので、

そこから進入しろ。ただし、職員室に近いから注意してくれ。学校帰りの教員に見つかるな」

無線が切れる。早速、そこに移動することにした。



プール…プール…無いぞ。と言うより、どこがプールなのかわからん。

大佐から電話が来た。

「スネーク。進入したら、鍵を掛けてくれ。それを言い忘れただけだ」

「大佐、プールの位置がわからん」

「プールは、校舎のすぐ近くだ。一目で分かる」



…あれか?



妙に高い塀に囲まれた一角がある。女子校のプールなら、覗き対策でああなっている可能性はあるだろう。

目論見通り、そこに見窄らしい出入り口があった。

ドアは簡単に開いたので中に進入する。



「大佐、進入に成功した」

「そうか。次は、寄宿舎まで来てもらう」

「寄宿舎か…どこがそうなのかわからん」

「大丈夫だ。今の時間ならば、殆どの部屋で電気が点いているだろう。明るい建物がそれだ」

「なるほど…俺の寮に似てる」

「一緒にしてもらっては困る。ここの防犯対策は完璧だ…中から手招きがない限り、進入できないだろう」

「それで、どんなルートを通ればいい?」

「校舎の裏を通って、まっすぐに向かってくれ。この時間になれば、そちら側に人がいないだろう」

「解った。行動に移る」



校舎裏は、確かにまったく人気がない。



それでも静かに移動を開始した。



ゴソゴソ



声がする!藪の中に隠れた。

「大佐、このルートは駄目だ」

「何故だ?スネーク」

「誰かが居る…」

「何だと!?誰だ?」

スッと人影を見る。

「赤っぽいネクタイをした痩せ形の男と…」

「………」

「グレイのスーツを着たソバージュの女だ。あ、キスしてる」

「マジで?マジで!」

電話先から、こそこそと何かを伝える声がする。

その途端に、キャキャー凄い声がした。

「スネーク!任務を追加する。その男女の行動を、出来る限り詳しく、具体的に実況してくれ」

「………了解した」

どうして女はこういうのに関わりたがるのか?

この二人は、この学校の教職員だと言うことは解る。人の求愛行為を覗くとは…何とも趣味が悪い。

「長いキスだ」

「スネーク、ビデオカメラは持っているか?」

「持っているわけ無いだろう…有ったとしても、今の時間は、暗視カメラでなければ撮影できない」

「残念だ…スネーク。本当に残念だ」

そんなことを言っているうちに、男が服を脱がし始めた。

「男が女の服を脱がし始めた…予想に反して白いブラだ。男は女の胸を揉み始めている」

うおーって大音響がリアルタイムで聞こえてきた。どうやらスピーカーに切り替えたらしい。

「男の手は胸から下に移動している。く…ここからではよく見えない」

「スネーク!見える位置に移動して実況をしろ。これは命令だ!

「無理だ。それでは、向こうからも見えてしまう」

「くうう」

「大佐、女がよがり始めたぞ」

「その女は、どんな表情だ?」

「何とも言えないって顔だ…お、女がしゃがんだ」

もっと具体的な性行為に移るつもりらしい。

「スネーク…頼む。それが、見える位置に移動してくれ…」

「俺もそうしたいが、無理だ」

男もしゃがみ始めた。もうここからではまったく見えない

「だめだ…男もしゃがんでしまった。まったく見えない。次の行動を指示してくれ」

「く…この役たたずめ…。まあいい、それでは、校舎正面は見つかってしまうので、2階から進もう」

「校舎内に入るのか?」

「そうだ。近くにある階段を上って、2階を静かに進んでくれ。決して走るなよ…1階には職員室がある」

「解った。作戦に移る」



フウ…フウ…と声は大きくなっているが、そこを離れて学校の校舎内に入った。

確かに階段があり、そこを上る。

2階廊下は真っ暗だ…静かに進み始める。



大佐から連絡が入る。

「スネーク、その近くに生物化学室があるだろう?」

「ああ、ある」

どの学校にも同じようなプレートがドアの上にあった。

「そこに入ってくれ」

「何故だ?」

「いいから!」

ドスがきいている…怖い。

鍵がかかってないので生物科学室に入る。中は真っ暗で何も見えない。

「大佐…真っ暗だ。何も見えない」

「電気は付けるな。月明かりくらいはあるだろう?カーテンの隙間から下を覗いてくれ。そおっとな」

覗いてみると、さっきの男女が本番真っ最中だった。

「よし、見えるな!実況を再開してくれ!

「いや、さっきの男女は見あたらない。どうやら移動したらしい…」

もう時間を潰したくないので、切り上げることにした。

「な…なんだと…」

力のない声が帰ってくる。

「そ…そうか…………」

ガックリと、うなだれている姿が目に浮かぶ。

「では移動して、非常階段の方から降りてくれ」

「了解した」



愛し合う男女を祝福しながら、移動を再開した。



非常口と書いてあるドアを開けると、明るい建物が3戸見えた。

団地のように同じ建物が並んでいる。



「大佐、見えたぞ」

「よし。では、3号棟の3階6号室まで来てくれ」

「それこそ無理だ。人の出入りが激しくて、そこまで移動できない」

「………抜け道がある。使いを出そう。その非常階段の下に隠れていてくれ」

「解った」



階段を下りて、段ボールの陰に隠れる。



「大佐、さっきの人たちはいったい誰なんだ?」

「恐らく、国語の佐伯先生と英語の柴田先生だ。」

「あんな所でするとは…変態なのか?」

「いや、違う。二人とも結婚しているから、不倫だと思う」

それは凄い物を見てしまった。

「勇気あるな…こんな所で不倫とは」

「証拠が残れば面白いことになったんだがな…まあ、仕方あるまい」

悪女っぷりは昔と変わらない…

寄宿舎の方から、誰かが歩いてくる。

ショートカットの女だ。背が低いのか、子供のようにも見える。

「大佐、誰か来る。ショートカットの女だ」

体操服を着ているのか、胸に大きく名前が書いてある。

「高谷って女だ。こいつが使いか?」

「そうだ。呼びかけろ」



高谷に向かって、手を振る。

気が付いたらしく、高谷はこちらに向かって小走りで近づく。

「スネークさんですか?私、高谷です」



「スネークだ。早速だが、案内してくれ」

「はい。じゃあ行きましょう」

高谷は、人気のない方向に歩き出した。俺もそれに続く。



「スネーク」

「大佐か、どうした?」

「高谷と合流したようだな」

「ああ」

「では、これから高谷の指示に従って行動してくれ。彼女がゴールまで導く」

「解った」

「ところで…スネークよ」

「何だ?」

「高谷は気に入ったか?」

「え?ああ、可愛い娘だ。それがどうした?」

「それは良かった…その娘が成功報酬の一人だ」

「なに!?」

ふっと高谷を見る。そう言われるとかなりの美人な気がする。

「後三人が此処で待っている。早く来ることだな」

通信が切れる。

高谷はこちらをぽけーっと見ている。



「急いで行こう」

「え、はい」

急ぎ足になる。高谷がこのレベルならば、もう三人のレベルもかなり期待できる。



しばらくすると、人気のない裏路地にたどり着いた。

「スネークさんが来た道のりは、死角になっているんですよ。このルートで夜の街に繰り出していくんです」

高谷が熱心に説明する。

ほお…つまり、あのプールの出入り口で張っていれば、邪なチャンスも出てくるわけだ…良いことを聞いたな。



「ここです。この階段を上れば、すぐに先輩の部屋です。」

非常口らしい、螺旋階段の入り口に来ていた。すぐさま上り始める。

3階のドア…開けるのを躊躇う。

「高谷、人がいるか確認してくれ」

「はい」

先に高谷が入る。少しキョロキョロした後…

俺にOKサインを出した。



「スネーク」

大佐から連絡が入った。

「大佐、どうした?」

「まだか?もう待ちくたびれたぞ」

「今、3階だ。間もなく到着する」

ガラガラ

いきなり、隣のドアが開いた。7号室だ。

「あ」「あ」「あ」

俺と高谷、そしてその部屋から出てきた女性は硬直する…

「スネーク、何があったんだ?おい、スネーーーーク!」

「き」

この女、叫ぶつもりらしい!とっさに口をふさいだ。

高谷は、大佐の部屋のドアを開く。

7号室の女は、激しく抵抗しながら涙目になってきた。…こりゃヤバイ!

8号室から大佐が出てくる。

「スネーク!…げぇ水野」

大佐は、7号室から出てきた水野という女性を見て、あからさまにやな顔をした…

「スネーク、とりあえず水野も連れ込め」

「了解だ」

嫌がる水野ごと、大佐の部屋に入る。



「大丈夫、大丈夫だから」

俺に口をふさがれたままの水野を大佐はなだめている。

その間、部屋を見回す。

さっぱりとした部屋だ。物持たずな性格は相変わらずだな…ベッドが一つと言うことは、一人部屋らしい。

今、この6畳1間くらいの部屋には、6人の女性が居る。大佐と水野、高谷。

そして、見たこと無いのが3人…三田、河野、宮島。色違いの体操着を着ている。どうやらこの娘達が

残りの成功報酬らしい。みんな美人で良かった…



「スネーク、もう手を離しても大丈夫だ」

俺はそっと手を離す。

「ふぅ…耶宵さん、これはどういう事ですか?」

水野という女性はメッチャ怒っている…

「それに、この人は誰です?」

キッと俺を睨む。その目は鬼のようだが、これはこれで、なかなかの美人だ。

「水野…これを見てもそんな口がきけるかな?スネーク、物資を」

俺は黙って、持ってきた荷物を開ける。

ギッシリ入ったタバコや酒、菓子にジュース。

それを見た、水野という女性の口元が少し歪んでいる。

「スネーク…ここはね、売店というコーナーが存在しないの。こういう物は、外に出なければ手に入らないし、

持ち込むことも許されない。厳しい所なの」

「俺の寮よりやばいな…」

「そう。此処での一番の誘惑は…」

ウィスキーを紙コップに注ぐ。

「これだ」

それを水野に差し出す。飲んでもないのに頬を紅く染めていく…どうやらこの娘、酒好きらしい。

水野はそれを受け取り…一気に飲み干した。なるほど…誘惑に負けたのか。

ふらふら歩いて、床に腰掛ける。どうやら俺を歓迎してくれるらしい。



大佐は、俺が持ってきた物資を確認している。

「うむ。全部あるようだな…ご苦労だったスネーク。では、お帰り願おうか

「なんだと!」

「成功報酬の全て条件は満たしている。久しぶりに私の顔は見れたし、過去の浮気も水に流した。

それと、私の後輩を紹介するんだっけ?高谷に三田、河野と宮島。うん、紹介終わり」

「そんな、ガキみたいな…」

「スネーク…君は今、自分の立場が解ってないみたいだ。私が此処で悲鳴を上げたらどうなると思うかね?」

「ひ、卑怯な!」

「………」

大佐は冷たい目で俺を見る。

「どうしても此処に居たいというならば…一つだけ条件がある」

「…なんだ?」

「私の後輩達に手を出さないこと。それだけだ…」

「酷いよ…」

「嫌なのか?」

「解った。手を出さない」

「そう!それでいいんだ」

大佐は俺の肩をバンバン叩いて、

「さて………・ヴァージンヴァージン

知らない人が聞いたら誤解されそうな事を言いながら、ヴァージニアスリム(煙草)に火を付ける。

「ん〜んまい。最高!」

俺も座ってタバコに火を付ける。

「スネークさん!さっきの話をもっと詳しく教えてください!!」

高谷が俺の近くに寄ってくる。

「さっきのって、あの不倫の奴か?」

「はい!」

「不倫?」

水野が反応する。

「ああ、ここに来る途中、佐伯と柴田の不倫を目撃したんだってさ」

大佐は、ビールを開けながら答える。

「それはそれは…是非詳しく!」

水野まで寄ってくる。どうして此処の連中はこういう話が好きなんだ?

「実況は録音済みですから、回想でお願いします」

他の娘達も参戦してくる。

そんな感じで寄宿舎の夜は過ぎていく…結局、報酬は騙されたが、楽しかったのでよしとしよう。




実はあの後、大佐には秘密だったのだが…水野とはそれからしばらく連絡を取り合っていた。

後にばれるのだが、水野が相手ならどうでも良いとのことだった
posted by RYVO at 10:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記時代のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【復刻版】乾いた男(下)

ホラー的な要素を強く含みます。嫌いな方は飛ばしてください!その1は↓にあります。

追憶編:乾いた男2




コンビニから出た後、車は高速を直走っていた。



スピードは間違いなく120を超えているだろう。竹葉さんは笑顔で快調に飛ばしている。

ここに、見つかれば間違いなく退学になる二人の高校生を乗せて…



日野さんと大沢さんはいちゃついている。

でも、いちゃつくって言うよりか、大沢さんが化け物に襲われているようにしか見えない。

そんなことは言えるはずもなく、俺は田中さんと愉快なホラー談義に花を添えた。

ホラーに詳しい人なのだが、どうやらフリーク(キモイ怪物物)が好みらしいので、

なかなか会話が咬み合わないのが残念だった。

ちなみに俺は、シャイニングやハンニバルのような人間物が好み。



そんな話をしている間にも、高速を降りて街道を走っていた。

温泉地なのだろうか?ホテルっぽい建物がよく目に付く。

逆側の窓は…殆ど何も見えない。異常なほど真っ暗だ。

どこを走っているのかさっぱり解らん…



その後すぐに目的地に到着。

筋肉質の竹葉さんが「準備宜しく」と降り出す。

後部座席の面々も続いて降りていく。



目の前には鬱蒼とした森が広がっている…



竹葉さんと先輩、田中さんはバラバラに行動している。大沢さんは化け物と戯れながら荷下ろし。

俺は先輩の後ろに回って補助する。何をしていいのか解らないし、邪魔になるのもゴメンだったし。



竹葉さんは、自分のベルトに細いロープのような物を巻き付けている。

「先輩、今夜の目的って何ですか?そろそろ教えてください」

なんか嫌な予感がして先輩に聞いてみる。

「フン」

これまた嫌な笑い方をして空を指差した。

「あれ、な〜んだ?」

うっすらと大きく聳える山が見える。日本人なら見覚えのある形だ。

「富士山…すか?」

「じゃ、この森は?」

鬱蒼とした気味の悪い森を見る。

「例の…入ったら生きては帰れないと噂されるあの樹海っすか?」

先輩は、満足そうに頷くと…

ジュカイックパークにようこそ!普段ナカナカ見ることができないが目白押しのツアーです」

わざわざポーズまで決めて俺に説明する。

こ…こいつら、ホラーサークルとか抜かしてたが…実は自殺サークルだったのか!ヤラレタ。



でも、そんな俺の気持ちは無視され、今回の行動の説明に入る。

新人(俺)がいるので1からの説明になった。



竹葉さんが先導して進む。その後ろに先輩、俺、日野さん、大沢さん、田中さんの順で進む。

竹葉さんがロープを身につけているので、それを全員が持って一列で進む。

何があってもロープから手を離してはならない。単独行動は御法度でトイレも許されない。

今回は、新人(俺)がいるので、2キロの長距離コースをとる。

自殺が多発するポイントは4カ所。何回かの実践で覚えた、死体が良くある場所巡りをする。

「ここからが重要だから良く聞いとけ!」

竹葉さんの顔が険しくなる。

もし、車が発見されたら、高校生は指定の場所へ逃げる。(先輩は知っているので聞かなかった)

それと…もし、中で生きている人に出会ったら、話しかけずに来た道を戻ること。

全員が戻ったらロープは切断してそのまま帰る。

「後で詳しく教えてあげるけど、以前、逆ギレしたリストラ親父に殺されかかったことがあるんだ」

怖いことをさらりと言う。

「俺もその時にいたよ。ロープ切られたんだ…マジでその親父を殺してやろうかと思ったよ」

まぁ…先輩の人生も逞しい限りで。

後は、軍手は必ず着用することと、携帯ナイフを持ち歩くこと。軍手とナイフは此処で渡された。



「じゃ、行こうか。くれぐれもロープは離すなよ」

竹葉さんがガードレールを超えて森の中に入っていく。

先輩の前で反対なんかできるわけが無く、俺も先輩の後に続く。

森の中にはいると、フインキは一変した。

そう、例えるなら、カイジが鉄骨綱渡り本番で第一歩を踏み出した感じ。

『ざわざわ』って聞こえてきそうな…

「大丈夫よ、本物が見つかる可能性なんて少ないから」

後ろから日野さんが優しい言葉を掛けてくれる。でも、後ろは振り向きたくないな



道無き道をしばらく進むと、先頭の竹葉さんが立ち止まる。

「第一ポイント到着ぅ…外れ」

早速、次のポイントに移動開始。

死体がなかった代わりに田中さんが、此処の自殺についてのうんちくを教えてくれる。



「ここって首吊りのイメージが強いだろう?実は、そんなのばかりじゃなくて、

多種多様な死に様が見られるんだ。首吊りはもちろん、睡眠薬を使った死、刃物で手首とか切った死、

急に恐ろしくなって思い止まったのはいいけど、迷ってしまった挙げ句に餓死なんて人もいる。

一番酷いのは…これは推測だけど、他で殺されて此処に捨てられてしまった人もいると思う。

だいたいは遺書が残されているんだけど…無いのは怪しいね。ま、どこか飛んで行っちゃった

なんてのもあるんだろうけどね。でも、バッグとか持ってる人が多いからそうそう無いよ」



凄く貴重な話をしているのだろうけど、今その場にいる俺にとっては、気味悪いことこの上ない…

なんか、よそ見とかしたくない気分…嫌な物見ちゃいそうだし。



そんなことを行っている内に、第2ポイントに到着。少し休憩することになった。

「RYVO君、そこ解るか?」

田中さんが木の枝を指差す。

そこには、何かに削られたような物がある。

「これはね、いろんな人が何度も同じ木に縄を掛けて首を吊った証拠なんだ…」

嫌な物を見せられた…鬱だ。もう帰りたいよ!お母ちゃーん!!

そんな俺の気持ちも知らずに、田中さんはなおも続ける。

「こんな森の中なのに、この木で首を吊る人が多いんだ…でも、理由は簡単。

一つは、太くて折れそうにない頑丈な枝が手頃な位置にあると言うことと…」



ブーーーン!



もう…ママのオッパイでも吸いたいとか思っていたところに、妙な音が響いた。

遠くで、森の中を白のマークUが疾走している…でた、幽霊だ!しかも車に乗ってる〜

何事もなかったように車は通り過ぎて行く…

「ここは車道から近いんだよ。それがもう一つの理由だ。要は、発見されやすい所で死にたいってね。

借金とか、人間不信とか…自殺の理由は多く存在するけど、結局は人間社会から取り残されるのは

ゴメンなんだとさ。死んだら墓に入りたいって願望はあるんだよ。それが死の直前でもね」



「よし、出発」

竹葉さんの一言ではりきって進行再開。俺はむしろ、今見える道路に逃げていきたい気分だ。

何故この人達はこんなに楽しそうなんだ…もはやワケワカラン。



みんな無言で、ムカデのように歩いていく。此処が樹海じゃなかったらギャグなんだろうな…



持っていたリュックからコーラを取り出して飲む。

此処ではじめて、俺は死ぬほど喉が渇いていることに気が付いた。

恐怖っていろいろな感覚を忘れさせてくれる…



でも少し落ち着いてきた…

空気は良いし、森の爽やかな香りも嗅ぎ取れる。当初は気味悪いだけだったが、

見ていて落ち着くようになった。慣れたのだろうか?それとも森のリラクゼーション効果か?



「お」

竹葉さんが小さな声を上げる。

「ん、どうしました?」

先輩が小声で聞くと、

「当たりかも…」

こそこそと嫌な会話をしてる…



その直後に、嫌 な 臭 い が し て き た。

何て言うか…昔同じ臭いをかいだことがある。河原の近くで朽ちていた犬の亡骸と同じ臭いだ…

でも薄い…犬より薄いのだから人なんかではなく、何かの小動物か鳥ではないのか?

ちょっとした期待をしつつも心臓の鼓動は秒速で強くなっていく。



竹葉さんや先輩は注意深く辺りを調べながら進む。



「居るな…」

しんがりの田中さんまで言う始末。

「いつもの木は?」

「いや、居ない。でもこの辺に居ると思う。」

「落ちてるかもね…」

「ああ」

急にみんなベラベラ喋りだす。



ゆっくり進みつつ、更に調査。

凄い臭いになってきた…素人の俺でもこの辺に死体があると解る。

「これどうぞ」

後ろの日野さんからさっき寄ったコンビニのビニールが渡される。この中にゲロれと言うことだろう。



「居た!」

先頭の竹葉さんが見つけたらしい。少し動きが早くなる。



酷い臭いで目が痛い…



「居たぞ。ここだ」



竹葉さんの動きが止まる。



そっと覗き見ると…



「あ…」

思わず俺は声を上げてしまった…木の根本に腰掛けるようにして存在する死体があった。

全身ドロドロで、蛆が沸いている様な感じではなく、何ヶ月か放置された豆腐のような…

カラカラに乾いてしまっている死体だった。

眼球は既に無いが、眼鏡は掛けている…酷く汚れた眼鏡なのが印象的だ。

かなりの部分で骨が露出してしまっているが、衣類に乱れはないが汚れは酷い。

その割に、その人物の物と思われる遺品が散乱している。



「墓荒らしにあったな…」

田中さんがトンデモないことを言い出す。

「ああ。浮浪者か…それとも同類の仕業か」

大沢さんが財布を発見した。

財布を見ると、金はない…当たり前と言えそれまでだが、小銭すらない。盗まれたのだろうか?

キャッシュカードもクレジットカードも存在しない。あるのは免許証と何かのレシートっぽい紙だけ。

免許証には、呉…それ以降の名前は読めない。中国人か、それとも韓国人か…

日本人の名前ではないことは確かだ。期限は今年の5月。

写真には、眼鏡を掛けたやせ気味の男が写っている。32歳(当時)か…



もう一度、死体を見る。



グッと胸が締め上げてくる感じがする。だが、別に吐きそうなわけではない。



いろんな言葉が思い浮かんでは消えていく…ただ一つだけ、はっきり言えることは、



俺はこうはなりたくない…全うに生きて、誰かに見送られるような最後を迎えたい…



それだけだ。




しばらくして、第4ポイントに移動を開始した。

まだ行くのか…正直げんなりしていたが、もう何も怖くはなくなっていた。

しかし、結局第4ポイントには何もなく、元の道を戻り始めた。



車まで戻ると、帰りの準備を始める。

ロープは帰り道に巻き取り、みんなのバッグやらをしまうだけの簡単な物だった。

すぐに車で移動する。長居は無用だそうだ。



「今日はどうだった?」先輩に尋ねられる。

つまらないなんて答えられるはずがないだろう!当然、面白かったと答える。

「そう言えば、樹海に入る前に話した生きてた人を発見した話だけど…」

田中さんお得意のうんちくが始まった…でもこの話はまた別の機会に。



学校の近くまで戻ると、そこで俺と先輩は降ろされた。

車はすぐに発進する。日野さんは手を振っていた。

さようなら…永遠に



先輩とあれこれ話しながら学校に着く。もうかなり明るくなっていた…

まもなく起床のアナウンスが流れるであろう…俺は速攻で部屋に戻る。



体操着に着替えると起床のアナウンスが鳴った…

これから、朝一の運動場10周マラソン大会だ…糞学校が!休みくらい寝かせろ!
posted by RYVO at 10:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記時代のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月21日

【復刻版】乾いた男(上)

ホラー的な要素が強いです!嫌いな方は飛ばしてください。

追憶編:乾いた男1




俺の高校時代は、男祭りな生活だった。男子校なのが原因だ。

非常に校則が厳しく、全寮制の上に、外泊・外出も厳しい審査の後に許可される所だった。

ハリーポッターのホグワーツのような寄宿舎付きの名門校みたいな学校ですね。

そんな噂を聞きつけた金持ちの親達が、息子達を入所させる学校でもある。



しかし俺の高校は実質、生徒達の質的に名門とはほど遠く…

どちらかと言えば、同じハリポタに出てきたブルータス更正不能少年院ぽい感じ。

この生活に耐えられなくて、逃げていった人たちは山ほどいる。

俺の代でも最初は1クラス50人の6クラスだったのに、卒業時には3.3クラスになっていた。

4分の1は逃げたり退学になったりしたわけだ。

だが、別に俺は不良というわけではなく、真面目な生徒と見られていたはず。




そんな真面目な生徒が初めて体験した無断外出のお話。




どんなに厳しい学校でも、趣味が合う人はいるもので…

俺はある先輩と仲良くなった。繋がりはもちろん趣味のホラー。

出会いは映画館、上映作品はホラー。何となく先輩に声を掛けられたのがきっかけでした。



休みが終わって学校に戻ると、早速先輩の部屋に呼ばれる。

『うわぁぁ夢いっぱい。お腹いっぱい』

そんな感想で脳内が埋め尽くされるほど、ホラー的(スプラッタ)で埋め尽くされた部屋。

そんな愉快な部屋で、とても愉快な話で盛り上がる俺と先輩の日々。

先輩曰く、「同じ趣味の人がいなくてずっと退屈してたんだ」そうです。



そんな感じで1、2ヶ月も過ぎたある日、先輩にある誘いを受けた。

「面白い物が見れる場所がある。お前も行かないか?」



この学校の順位は、3年生=神・2年生=民間人・1年生=奴隷。

奴隷が神に逆らえるはずが無く、それは強制を意味していた。

カイジとは違って、現実はこんな物です。もちろん5W1Hな質問も許されない。

決行は…今日の消灯(10時)ちょうど。時間だけ教えてもらって部屋を出る。

1年生はやることが多く、消灯後も作業は続くのにも関わらず、もんの凄く無理な注文…

だが、嫌ともいえず頷いた俺…さてどうしたものかと悩んだ。



そんな思惑とは裏腹に、消灯直前に寮長の先輩に声を掛けられた。

「お前、○○に呼ばれてるんだろ?今日は、行っていいから」

そうか…そういえばあの先輩は不良に分類される生徒だ。

多分、この真面目な寮長を、脅迫まがいなやり方で言いくるめたのだろう。可哀想に…



この学校のいじめは壮絶だ。なんせ、同じ場所に住んでいる以上逃げ場がないので、

戦う以外の選択肢はない…だから、強くなるしかないのだ。弱ければ干される…

親もそれを承知で入学させているので、誰一人として文句を言う人がいない。

俺は運が良かったかもしれない…不良な先輩と仲良くなれば、上からの圧力はなくなる。

ただし、自分も更正不能の不良になってしまう恐れがある、諸刃の剣。素人にはお勧めできない。



先輩の部屋に行くと、見事なほど私服に着替えている。俺は学校指定の体操着。

「あ、言い忘れた。普段着ね。そっこ着てこい」

3年の部屋までは遠く、此処まで必死に着た道のりを戻る。

先生もこの寮内に住んでいるので、見つかったらアウト&停学。消灯後に出歩くだけで停学。

部屋に帰ると、ルームメイトがまだ起きていた。東京から来た長崎君と近所から来た佐竹君。

そして、ケニヤ人のトーマス

俺がボコられる為に呼ばれたと思っていたらしく、私服に着替える俺を意外そうな顔をして見ていた。

まあ、それだけ1年生は、日常的にボコられていたわけだ。もちろん、俺も例外ではない。

俺は、そんな同級生を横目に部屋を出た。



先輩の部屋に行くと、すぐに出発になった。

さすがに3年もこんな所で暮らしていると、脱走のお手の物だと感心してしまう。

学校から少し離れた人気のない道路に出る。まったく知らない場所だ…

先輩を見失ったら、もう二度と戻れないだろうって感覚に襲われる。



「時間なのにまだ来ねえよ…何やってんだマジで!」

10時半に約束していたらしいが、時間ぴったしで文句を言い始める先輩。

この学校がきっちりしすぎているのだ!…なんて言えるはずがないので黙って待つ。



15分遅れでバンが到着。中から大学生風の男が手招きしてる。

先輩は、「遅せえ」とかブツブツ言いながらも乗り込む。俺も続く。



先輩は、前部座席で俺が後部座席に乗り込んだ。車内はベッドになっているらしく、何人か寝ている。

運転手は体育会系と思える肉体派の短髪男。後部座席には、小柄で痩せ形の男と普通な男と

暗くてよく解らないが、女性もいるらしい。そして俺と先輩を合わせた6人パーティーだ。

「君、一年生?」女性が話しかけてくる。

「はい。RYVOと言います。宜しくお願いします」

「若いねえ、俺たちは○○○大学のホラー同好会なんだ」痩せた男が声を掛けてくる。

何でもない自己紹介をした後、しばらく沈黙が続いた。

痩せた男は、大沢さん。普通の男が田中さん。女は高島さん。筋肉男は竹葉さんと名乗った。



しばらく進むと、途中でコンビニに立ち寄った。そこで初めて全員の顔がよく見えた。

「俺、高島と付き合ってるんだ」

大沢さんが高島さんの肩に手を掛ける。

「そ…そうですか」

この高島って女、何て言えばいいんだろう?何で例えればいいのか…

そう…この女は、恐怖漫画家・日野日出志の描く、化け物によく似ている。とにかくブスだ。

こんなに酷いブスも珍しいくらいの女に手を掛ける痩せた大沢さんは、ある意味仏様だ

これから高島さんは、日野さんと呼ぶことにしよう。



そんなことは気にせず、3週間ぶりのシャバで3週間ぶりのコーラを飲んだ。

何て甘美な飲み物なのだ…シュワシュワ感がたまらない。

学校には、健康的に100%オレンジジュースくらいしかない。

酒が飲めない俺にとって、コーラは唯一の楽しみだ。だからデブだという話もあるが…



俺は田中さんにこれからの予定を聞く。明日は日曜日で学校は休みだが、寮は生きている。

点呼もすれば掃除もあるのだ…居なくなっていることがバレれば、停学ではすまない。

「聞いてないのか?」田中さんは、先輩を見る。先輩はそれを聞いてニヤっとした。

そして少し間を開け…

「ククク…そうか聞いてないのか。じゃあ着いてからのお楽しみだな」




田中さんの嫌らしい笑みを見ながら、「追憶編:乾いた男2」に続きます。
posted by RYVO at 22:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記時代のログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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