コンビニから出た後、車は高速を直走っていた。
スピードは間違いなく120を超えているだろう。竹葉さんは笑顔で快調に飛ばしている。
ここに、見つかれば間違いなく退学になる二人の高校生を乗せて…
日野さんと大沢さんはいちゃついている。
でも、いちゃつくって言うよりか、大沢さんが化け物に襲われているようにしか見えない。
そんなことは言えるはずもなく、俺は田中さんと愉快なホラー談義に花を添えた。
ホラーに詳しい人なのだが、どうやらフリーク(キモイ怪物物)が好みらしいので、
なかなか会話が咬み合わないのが残念だった。
ちなみに俺は、シャイニングやハンニバルのような人間物が好み。
そんな話をしている間にも、高速を降りて街道を走っていた。
温泉地なのだろうか?ホテルっぽい建物がよく目に付く。
逆側の窓は…殆ど何も見えない。異常なほど真っ暗だ。
どこを走っているのかさっぱり解らん…
その後すぐに目的地に到着。
筋肉質の竹葉さんが「準備宜しく」と降り出す。
後部座席の面々も続いて降りていく。
目の前には鬱蒼とした森が広がっている…
竹葉さんと先輩、田中さんはバラバラに行動している。大沢さんは化け物と戯れながら荷下ろし。
俺は先輩の後ろに回って補助する。何をしていいのか解らないし、邪魔になるのもゴメンだったし。
竹葉さんは、自分のベルトに細いロープのような物を巻き付けている。
「先輩、今夜の目的って何ですか?そろそろ教えてください」
なんか嫌な予感がして先輩に聞いてみる。
「フン」
これまた嫌な笑い方をして空を指差した。
「あれ、な〜んだ?」
うっすらと大きく聳える山が見える。日本人なら見覚えのある形だ。
「富士山…すか?」
「じゃ、この森は?」
鬱蒼とした気味の悪い森を見る。
「例の…入ったら生きては帰れないと噂されるあの樹海っすか?」
先輩は、満足そうに頷くと…
「ジュカイックパークにようこそ!普段ナカナカ見ることができない者が目白押しのツアーです」
わざわざポーズまで決めて俺に説明する。
こ…こいつら、ホラーサークルとか抜かしてたが…実は自殺サークルだったのか!ヤラレタ。
でも、そんな俺の気持ちは無視され、今回の行動の説明に入る。
新人(俺)がいるので1からの説明になった。
竹葉さんが先導して進む。その後ろに先輩、俺、日野さん、大沢さん、田中さんの順で進む。
竹葉さんがロープを身につけているので、それを全員が持って一列で進む。
何があってもロープから手を離してはならない。単独行動は御法度でトイレも許されない。
今回は、新人(俺)がいるので、2キロの長距離コースをとる。
自殺が多発するポイントは4カ所。何回かの実践で覚えた、死体が良くある場所巡りをする。
「ここからが重要だから良く聞いとけ!」
竹葉さんの顔が険しくなる。
もし、車が発見されたら、高校生は指定の場所へ逃げる。(先輩は知っているので聞かなかった)
それと…もし、中で生きている人に出会ったら、話しかけずに来た道を戻ること。
全員が戻ったらロープは切断してそのまま帰る。
「後で詳しく教えてあげるけど、以前、逆ギレしたリストラ親父に殺されかかったことがあるんだ」
怖いことをさらりと言う。
「俺もその時にいたよ。ロープ切られたんだ…マジでその親父を殺してやろうかと思ったよ」
まぁ…先輩の人生も逞しい限りで。
後は、軍手は必ず着用することと、携帯ナイフを持ち歩くこと。軍手とナイフは此処で渡された。
「じゃ、行こうか。くれぐれもロープは離すなよ」
竹葉さんがガードレールを超えて森の中に入っていく。
先輩の前で反対なんかできるわけが無く、俺も先輩の後に続く。
森の中にはいると、フインキは一変した。
そう、例えるなら、カイジが鉄骨綱渡り本番で第一歩を踏み出した感じ。
『ざわざわ』って聞こえてきそうな…
「大丈夫よ、本物が見つかる可能性なんて少ないから」
後ろから日野さんが優しい言葉を掛けてくれる。でも、後ろは振り向きたくないな。
道無き道をしばらく進むと、先頭の竹葉さんが立ち止まる。
「第一ポイント到着ぅ…外れ」
早速、次のポイントに移動開始。
死体がなかった代わりに田中さんが、此処の自殺についてのうんちくを教えてくれる。
「ここって首吊りのイメージが強いだろう?実は、そんなのばかりじゃなくて、
多種多様な死に様が見られるんだ。首吊りはもちろん、睡眠薬を使った死、刃物で手首とか切った死、
急に恐ろしくなって思い止まったのはいいけど、迷ってしまった挙げ句に餓死なんて人もいる。
一番酷いのは…これは推測だけど、他で殺されて此処に捨てられてしまった人もいると思う。
だいたいは遺書が残されているんだけど…無いのは怪しいね。ま、どこか飛んで行っちゃった
なんてのもあるんだろうけどね。でも、バッグとか持ってる人が多いからそうそう無いよ」
凄く貴重な話をしているのだろうけど、今その場にいる俺にとっては、気味悪いことこの上ない…
なんか、よそ見とかしたくない気分…嫌な物見ちゃいそうだし。
そんなことを行っている内に、第2ポイントに到着。少し休憩することになった。
「RYVO君、そこ解るか?」
田中さんが木の枝を指差す。
そこには、何かに削られたような物がある。
「これはね、いろんな人が何度も同じ木に縄を掛けて首を吊った証拠なんだ…」
嫌な物を見せられた…鬱だ。もう帰りたいよ!お母ちゃーん!!
そんな俺の気持ちも知らずに、田中さんはなおも続ける。
「こんな森の中なのに、この木で首を吊る人が多いんだ…でも、理由は簡単。
一つは、太くて折れそうにない頑丈な枝が手頃な位置にあると言うことと…」
ブーーーン!
もう…ママのオッパイでも吸いたいとか思っていたところに、妙な音が響いた。
遠くで、森の中を白のマークUが疾走している…でた、幽霊だ!しかも車に乗ってる〜
何事もなかったように車は通り過ぎて行く…
「ここは車道から近いんだよ。それがもう一つの理由だ。要は、発見されやすい所で死にたいってね。
借金とか、人間不信とか…自殺の理由は多く存在するけど、結局は人間社会から取り残されるのは
ゴメンなんだとさ。死んだら墓に入りたいって願望はあるんだよ。それが死の直前でもね」
「よし、出発」
竹葉さんの一言ではりきって進行再開。俺はむしろ、今見える道路に逃げていきたい気分だ。
何故この人達はこんなに楽しそうなんだ…もはやワケワカラン。
みんな無言で、ムカデのように歩いていく。此処が樹海じゃなかったらギャグなんだろうな…
持っていたリュックからコーラを取り出して飲む。
此処ではじめて、俺は死ぬほど喉が渇いていることに気が付いた。
恐怖っていろいろな感覚を忘れさせてくれる…
でも少し落ち着いてきた…
空気は良いし、森の爽やかな香りも嗅ぎ取れる。当初は気味悪いだけだったが、
見ていて落ち着くようになった。慣れたのだろうか?それとも森のリラクゼーション効果か?
「お」
竹葉さんが小さな声を上げる。
「ん、どうしました?」
先輩が小声で聞くと、
「当たりかも…」
こそこそと嫌な会話をしてる…
その直後に、嫌 な 臭 い が し て き た。
何て言うか…昔同じ臭いをかいだことがある。河原の近くで朽ちていた犬の亡骸と同じ臭いだ…
でも薄い…犬より薄いのだから人なんかではなく、何かの小動物か鳥ではないのか?
ちょっとした期待をしつつも心臓の鼓動は秒速で強くなっていく。
竹葉さんや先輩は注意深く辺りを調べながら進む。
「居るな…」
しんがりの田中さんまで言う始末。
「いつもの木は?」
「いや、居ない。でもこの辺に居ると思う。」
「落ちてるかもね…」
「ああ」
急にみんなベラベラ喋りだす。
ゆっくり進みつつ、更に調査。
凄い臭いになってきた…素人の俺でもこの辺に死体があると解る。
「これどうぞ」
後ろの日野さんからさっき寄ったコンビニのビニールが渡される。この中にゲロれと言うことだろう。
「居た!」
先頭の竹葉さんが見つけたらしい。少し動きが早くなる。
酷い臭いで目が痛い…
「居たぞ。ここだ」
竹葉さんの動きが止まる。
そっと覗き見ると…
「あ…」
思わず俺は声を上げてしまった…木の根本に腰掛けるようにして存在する死体があった。
全身ドロドロで、蛆が沸いている様な感じではなく、何ヶ月か放置された豆腐のような…
カラカラに乾いてしまっている死体だった。
眼球は既に無いが、眼鏡は掛けている…酷く汚れた眼鏡なのが印象的だ。
かなりの部分で骨が露出してしまっているが、衣類に乱れはないが汚れは酷い。
その割に、その人物の物と思われる遺品が散乱している。
「墓荒らしにあったな…」
田中さんがトンデモないことを言い出す。
「ああ。浮浪者か…それとも同類の仕業か」
大沢さんが財布を発見した。
財布を見ると、金はない…当たり前と言えそれまでだが、小銭すらない。盗まれたのだろうか?
キャッシュカードもクレジットカードも存在しない。あるのは免許証と何かのレシートっぽい紙だけ。
免許証には、呉…それ以降の名前は読めない。中国人か、それとも韓国人か…
日本人の名前ではないことは確かだ。期限は今年の5月。
写真には、眼鏡を掛けたやせ気味の男が写っている。32歳(当時)か…
もう一度、死体を見る。
グッと胸が締め上げてくる感じがする。だが、別に吐きそうなわけではない。
いろんな言葉が思い浮かんでは消えていく…ただ一つだけ、はっきり言えることは、
俺はこうはなりたくない…全うに生きて、誰かに見送られるような最後を迎えたい…
それだけだ。
しばらくして、第4ポイントに移動を開始した。
まだ行くのか…正直げんなりしていたが、もう何も怖くはなくなっていた。
しかし、結局第4ポイントには何もなく、元の道を戻り始めた。
車まで戻ると、帰りの準備を始める。
ロープは帰り道に巻き取り、みんなのバッグやらをしまうだけの簡単な物だった。
すぐに車で移動する。長居は無用だそうだ。
「今日はどうだった?」先輩に尋ねられる。
つまらないなんて答えられるはずがないだろう!当然、面白かったと答える。
「そう言えば、樹海に入る前に話した生きてた人を発見した話だけど…」
田中さんお得意のうんちくが始まった…でもこの話はまた別の機会に。
学校の近くまで戻ると、そこで俺と先輩は降ろされた。
車はすぐに発進する。日野さんは手を振っていた。
さようなら…永遠に。
先輩とあれこれ話しながら学校に着く。もうかなり明るくなっていた…
まもなく起床のアナウンスが流れるであろう…俺は速攻で部屋に戻る。
体操着に着替えると起床のアナウンスが鳴った…
これから、朝一の運動場10周マラソン大会だ…糞学校が!休みくらい寝かせろ!
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